君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
パーティーが始まり、中央にいる澪音をぼんやりと眺める。

澪音は品の良い笑顔で来客に答えていた。ちょうど、ピアノ演奏後に会釈をするときと同じように。

さっきから何人もの人がスピーチをし、澪音に祝福の言葉を捧げては去っていく。


「……本日は、梶月家次期当主就任の宴席に足を御運び頂き誠にありがとうございます。

まだまだ若輩ではありますが、この澪音をどうぞよろしくお願いいたします」


紹介された澪音は控えめに挨拶をし、その瞬間にパーティー客の女性がため息をついた。


カシヅキ家次期当主がどういうものなのか分からないけれど、およそ自分に縁のない世界ということだけはわかる。


「ほら……あれ……

信じられない……背が高すぎて下品じゃない?」


「嫌ね、大股で歩いて。立ち振舞いも粗野だわ」


ヒソヒソと聞こえる声は私に向けられたものだ。澪音の隣にいるところを見られてから、異様な注目に晒されている。


私は身長が168センチなので、今のように高いヒールをはくと殆どの男性を見下ろすことになる。この背の高さはコンプレックスの1つだ。


ダンスでも高いヒールの靴をはくことが多いので、周りから浮いてしまったり、男女ペアになるダンスではパートナーとのバランスが悪くなることも多い。


身を小さくして視線を避けられればいいのに、大きな身長ではそれも叶わない。


「どうした? らしくなく猫背だな。顔を上げろ」


気が付くと目の前に澪音がいた。そういえば、澪音は高いヒールを履いていても顔を上げないと目が合わない。


「背が高すぎて悪目立ちしてるんですよ。この靴、ヒールも高いし」


「足が痛かったか?店でもやたら高いヒールはいてるだろう?」


「ダンスシューズに慣れるために普段からヒールなんです。痛くはないけど、ここでは周りから浮いてしまうし……」


「モナコ辺りのパーティーだと、柚葉くらい背がある方がしっくりくるんだけどな」


「モナコ……?」


そんなフォローをされても、私には想像の外の世界だ。多分一生足を踏み入れることは無いと思う。


「目立つのは悪いことじゃないだろ。堂々と目立て。

それに、柚葉に似合うと思ってドレスを選んだんだ。気に入ってくれると嬉しいんだけど」
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