君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
澪音が部屋に帰ってきた時、私はまだ眠りに落ちていなかった。


ベッドの片隅に腰かける気配がして、澪音の手が頬に触れるとひんやりと冷たい感じがした。


「なんだ、狸寝入りか?」


澪音がクスッと笑ってそう言った。澪音の指先が冷たかったので、少し眉をしかめてしまったようだ。自分の間抜けさに嫌気がさしつつも、澪音の反対側に顔を向ける。


「柚葉、分かりやすく寝たフリなんかしないで。淋しいだろ、ただでさえ今日は気が気じゃないんだから」


毛布を被って隙間から澪音の顔を除くと、いつも通りの優しい笑顔だった。本当にいつもと何ら変わらない。

澪音の表情に罪悪感とか気まずさの欠片がないか探したけれど、全くそんな様子は無かった。


今日のことは、澪音にとってとただの日常なんだ。いつもいつも、澪音は今日のように過ごして……


「教えてください、澪音。私に作ってくれた曲にダンスの曲が無いのはどうして?」


「格好悪すぎて、理由は言えない」


困ったように笑う澪音。さっきの料亭であの女性に見せたのと同じ表情……私の好きな表情のひとつ。でも今はその顔を見たくなかった。


「どうしてそんなことを聞くんだ?」


澪音に毛布を退けられると、私の泣き顔が目に入ったのかはっとしたように動きを止めた。


「大丈夫か?今日、あの男に何かされた?」
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