イノセント
その者、出獄

「V、出てこい。」

……呼ばれた。

自身の体よりも重い錘を引き摺りながら、扉へと向かう。

「遅い。」

何か、看守が手に持っていたもので顔を殴られる。

長年 きちんとした食事を食べていない私には力など残っておらず、殴られるがままに転んだ。

「何をしている?早く立て。」

当ても無く伸び続ける髪を荒く掴まれ、壁に身体ごと打ち付けられた。

壁にもたれ蹌踉めきながら、立ち上がる。

「仕事だ、行け。」

錘を外され、足枷も外される。
代わりに首輪を付けられ、看守に手綱を取られる。

私に自由などない、仕方ないことだ。

即位を断ったのだから。

国王になることはこの国で1番の栄誉、それを断ったのだ。

牢獄に入れられ、奴隷として扱われても仕方がない。

……そう、仕方がない。

波止場に連れて来られた。
そこには数人の青年たちが溜まって話し込んでいる。

そんな彼等に看守が話しかける。

伸びをしたい気持ちでいっぱいのところを我慢しながら俯いて 看守の側に立っていた。

首輪の鎖が看守から青年たちの手へと渡ると直ぐに鎖を引かれ 私は蹌踉めく。

鎖を引く手は弛まず、私の身体は海の方へと導かれる。

やはり力が入らない、脚に力を入れようとも 自分の意思に反して海へと近づいていく。

最終的に強く背中を蹴られ、海に突き落とされた。

……心臓は驚き 不規則に脈を打ち始める。

冬の海は、まだまだ寒い。

身を引き裂くような寒さに、身体が震え、首輪や手枷が錘となり 身体が沈む。

私はどうにか陸へ上がろうと手で水を掻く。
それに反して 身体はどんどんと沈んでいく。

その様子を見る人々は嘲笑した。

やっとの思いで陸に手をかける。

が、その手を踵で踏みつけられ、陸を掴んでいられなくなり 再び海に落ちる。

何度もそれを繰り返し、遂には青年たちはそのことに飽きたらしく 陸に上がることができた。

相当な量の水を飲んでしまっていたらしく気持ちが悪い、激しく咳込んだ。
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