宵の朔に-主さまの気まぐれ-
輝夜が柚葉を伴って居間にやってきた時、朔は目を丸くしてふたりに声をかけた。


「どう…した?」


「兄さんこそどうしました?寝ていなくていいんですか?」


「寝てばかりだと身体が鈍る。お前…どこに行っていた?」


「ああちょっとお嬢さんの部屋でお茶を飲んでいました。それが何か?」


何か、と言われると別に用事があるわけでもないのだが、輝夜がこうして女と一緒に居る姿を見るのは、はじめてのことかもしれない。


「いや、用事はないんだ。柚葉?目が赤いな、どうした?」


「いえ、鬼灯様に笑わされて笑いすぎて泣いちゃっただけですから」


「ふうん?」


朔が少し口角を上げて笑うと、輝夜はにっこり笑ってよいしょと年寄りくさい掛け声をかけて朔の隣に座った。


「兄さん、これを飲んでください。毎日飲めばすぐに快癒しますから」


「うん、ありがとう。ところで柚葉、ここを出て行く件だが」


「その件ですが…まだ思うように数が揃っていないのでもうしばらくご厄介になろうかと」


「そうなのか?うん、そうしてくれるとありがたい」


――期待させるようなことばかり言うくせに、あなたは凶姫の手を取ったじゃない。


…そう内心思いつつ小さく笑った柚葉は、輝夜が首を傾げて顔を覗き込むような仕草をしてきてとんと肩を突いた。


「鬼灯様、心を読むのはやめて下さい!」


「いやあお嬢さん、また泣きたい時は声をかけて下さいね」


「泣く?何か悲しいことでもあったのか?」


「なんでもありませんっ」


ぷんぷんして庭に下りて花壇の方へと行ってしまった柚葉をふたりの兄弟が目で追う。


「あんな柚葉ははじめて見る。お前たち仲良くなったのか?」


「ええ仲良しですとも。気になります?」


「んん、まあ若干な。さてそろそろ父様が起きてくる。輝夜、母様たちにばれないように気をつけろよ」


「私は大丈夫ですけど雪男はどうです?」


「あいつか、あいつはやばい。母様ににじり寄られたらぺらぺら喋ってしまいそうだからな」


輝夜が懐から取り出した竹筒を受け取って飲みながら雪男の悪口に花を咲かせた。
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