宵の朔に-主さまの気まぐれ-
普段無口な者が喋らないのは気にならないが…朔は違う。

よく話すし無口になる時といえば読書している時くらいのもので、無口な朔が真向かいに座っていると妙な圧を感じて、突っぱねていたのを少し後悔していた。


「…私から話すの?」


「どっちでもいいけど、じゃあ俺から話す」


聴覚だけが頼りの凶姫は、正座した膝の上で握り拳を作って朔の告白を待っていた。

…だが中々話し出す気配はなく、よほど言いにくいことなのかと思うとこうして強引に聞き出すのも気が引けてくる。


「話したくないなら話さなくていいのよ。私に悩みがあるように、あなたにも悩みがある。打ち明け合う必要はないわ」


「…輝夜もそんなこと言ってたな。自分で解決すから大丈夫だと」


「輝夜さんが?あなたの悩みって輝夜さん関係なの?」


「そうだ。俺が悩むことといえば輝夜かお前か柚葉のことだな」


柚葉の名にぴくりと反応した凶姫の憂いがまた柚葉であることをその反応で知った朔は、腕を組んで凶姫を見つめた。


「お前は柚葉を慕ってはいるが、悩みの種でもあるようだな。解決できそうか?」


「…柚葉がここを出て行くという事実が受け入れられないの。でもあの子はここを出て行かないと苦しむばかりなのよ。だからあの子のためにも私は我慢しなくちゃいけないの」


もし目が見えていたら泣いていただろう――

凶姫の声は震えていて、心細げに震える肩はか細く、その肩にそっと手を置いた朔は、その思いに同調して息をついた。


「俺も出て行ってほしくない。だけど説得も無理そうだ。一緒に柚葉を見守ろう」


「…柚葉はあなたに見守られたくないと思っているはずよ」


「え?」


「あなたも本当は気付いているんでしょう?柚葉の気持ちを」


――今まで考えなかったわけではないが、考えないようにしていた柚葉の想い。

沈黙した朔の肩に乗っている手を握った。


「あなたにとっての柚葉はなんなの?私に話して。私を納得させて」


やはりそうだったのか、と今までの柚葉の態度を振り返る。

そして期待をさせるようなことをした己の態度に憤りつつ、大きく息をついて、語った。
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