宵の朔に-主さまの気まぐれ-

光の行方

「だが…あの次元の穴は閉じている。どうやって行くんだ?」


ようやく落ち着いたが顔を両手で覆ったままの凶姫を静かな目で見つめた輝夜は、胸に手をあてて小首を傾げて微笑した。


「ちょっとずるをしようと思います」


「ずる?お前まさか…朧の時のようにまた鬼灯の光が薄くなるんじゃ…」


「いいんですよそれで。そうでないと彼女は救えない。兄さん…私はずっとずっと、自ら行動することを避けてきました。私的な感情を介入させてしまうと私はいつまで経っても欠けているものを取り戻せないと思っていたんです」


――自らを、語る。

それも今までの輝夜ならほとんどしてこなかったこと。

朔は椿との戦いでぼろぼろに成り果てていたが、このようやく戻って来た弟がまた果てしない旅に出なければいけない可能性が、可能性ではなく確実なこととなってしまうことに腰を浮かして輝夜の腕を握った。


「輝夜…それでいいのか?」


「お嬢さんは身代わりになったんですよ兄さん。私が…彼女と出会って考えたこともないことを教えられて、怒られて、癒されて…救われたような気持ちを覚えたんです。これは兄さんと同じかな、でも私は、私が救いに行かなければと確信を覚えています」


饒舌に語る輝夜がやんわりと朔の握っている手を離して背を向けると、黄泉が消えていった場所まで行って眼前に掌を翳し、右側に何か捩じるような動作をした。


すると――黄泉が作ったものよりもより完全な楕円形の真っ黒な穴が現れて、いつも胸に光のようなあたたかさを感じていたものが、急速に冷たくなっていくのを感じた輝夜はまた薄く微笑んだ。


「必ず連れて戻って来ます。待っていて下さい」


「ああ、行って来い」


一度、大きく深呼吸をした。

そして腰に提げた刀に手を添えて、一歩二歩、穴の中へと進んで行く。


絶対に、許さない。

私の光を奪わんとする、お前を――
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