宵の朔に-主さまの気まぐれ-
翌日のこと――

百鬼夜行から戻って、朧を心配させないために数時間寝てから凶姫に会いに向かった朔は、宿屋に向かう途中――柚葉とばったり出会った。


「柚葉…」


「!さ…主さま…」


「朔、でいい」


手には遊郭の女たちに頼まれたのか色々な袋を抱え、恐れるように後退りする柚葉に朔が詰め寄る。

こうして逃げられる筋合いはない。

逃げられた理由も分からずその理由を悶々と考えるのも、もう嫌だ。


「柚葉、少し話をしよう。逃げられてばかりだとこっちもつらい」


「主さま…私はもうあなたに関わらないと決めたんです。ですから…」


「そう言われても俺は関わるぞ。お前が逃げても今度は追いかける。一体どうしたんだ」


立ち止まって俯き、唇を噛み締める柚葉の困った表情は、過去何度も見てきた。

元々からして眉が下がっているせいで困り顔に見えるが、今回はさらにさらに困っている表情をしていて、思わず吹き出した。


「柚葉、その顔久しぶりだ。変わってないな」


「!お、お戯れを…」


「戯れてなんかない。柚葉、中に入って。少しでいいから話を聞かせてほしい。事情はなんとなく調べたけどお前から直接聞きたい」


――柚葉はかつて思いを寄せた相手をじっと見つめた。

朔と出会ったのは代替わりしてばかりの頃で、多くの妖を率いて崇め奉られ、疲弊していった頃だった。

物見遊山で都を訪れていたため幽玄町の主の元に挨拶に向かい、そして出会った。


少し昏い目をした、朔と出会った。
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