恋に落ちたらキスをして
 目が覚めていつかみたいに目の前で綾が笑っていた。
 軽いキスをされて、朝から目眩がしそうだ。

「お酒弱いところも好きよ。」

 微笑まれて、手を伸ばす。
 すぐに綾を捕まえられて幸せを噛み締める。

「俺の負けだ……。」

「尚が負けなのかな。」

「俺の負けだよ。」

 思えば入社したての頃「自分が頑張っていないお金なのに威張らないで」と言われた時から、自分のことをよく思っていない素振りをされた時から気になっていた。
 その時点で落ちることは決まっていたようなものだ。

 そのつもりは無かったけれど、わざと笹島先輩の目に映るところでモテていると思われそうなことをしていたと今なら分かる。

「勝ち負けで言ったら私の負けね。
 尚が気持ちを言ってくれなかったら、ずっと捻くれたままだったわ。それに……。」

「それに?」

「入社して顔を見ただけでタイプだったもの。
 遊んでそうだったから、必死でブレーキをかけたわ。」

 顔が……タイプだって?

「じゃ俺の勝ちかな。
 ブレーキを焼き切れさせれたってことでしょ?」

「引き分けよ。初めて目が合った時。
 先に目を離して赤くなったのは尚の方だもの。」

「それ、俺が負けって言いたいんですよね?」

「そうね。勝ちは譲って欲しいわ。」

 クスクス笑い合って目が合うとどちらともなく顔を近づけた。
 改めてゆっくりと唇を重ねる。

 あぁ。やっと。やっと本当だと感じることが出来た。

「ねぇ。好きなところ言ってくれないの?」

 会社の笹島先輩からは想像もつかない甘えた声を出す綾をギュッと抱きしめた。

「そういうとこだよ。好きなとこ。」

 もう一度重ねて「可愛い」と囁いた。

「いつまでもこのペナルティー続けたいね。」

「うん。続けよう。」

 綾が微笑んで俺の胸に顔をうずめた。





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