まほろば交差店




待ち合わせ時刻の少し前に改札を出たわたしは、まっすぐに南口に向かう。

駅ビル内にあるホテルやデパートの入口を通り過ぎ、外に出ると、ちょっとだけ冷えた空気に包まれた。

そこから左に進むと、待ち合わせ場所である水時計が見えてくる。

今までそこで待ち合わせたことはなかったけれど、特徴的なデザインは海外でも有名らしく、わたしも何度か見にきたことがあった。

1分もしないうちに辿り着くと、わたしはそこにいる人の中に神楽さんがいないか、ざっと確認した。

待ち合わせっぽい人もいれば、水時計を写真におさめる観光客もいて、思ってた以上の混雑だ。

けれど神楽さんの姿はまだなくて、ホッとするわたしと、残念に感じているわたしがいた。
・・・・神楽さんと会うのを楽しみにしているのは間違いなくて、なのに、そこにある感情を把握するのは難しかった。


だって、まだ一度しか会ったことない人なのに・・・・


わたしは水時計を見つめながら、神楽さんのことを考えていた。


電話ではじめて会話したときから、感じのいい人だな、とは思っていた。

実際に会った神楽さんは、電話の印象を裏切らず、優しそうで、誠実そうで、実年齢より若く感じる、オシャレな男の人だった。

言葉選びも穏やかだと思ったし、運転も上手だった。
ちょっとだけ強引かな?と感じたこともあったけど、それが特にマイナスになる感じでもなかった。

つまり、わたしは神楽さんにとても好感を抱いていた、それは事実で。


・・・・だから、今日を楽しみにしていたのも、全然おかしなことではない。

自分に、そう言い聞かせた。


言い聞かせなければならない時点で、もう手遅れなのだろうということには、気付かないフリをしながら。







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