宮花物語
第6話 嘘の住みか
紅梅に、他の妃へ行くように、自分から進言するものだと言われた黄杏は、湯殿から戻ってきた信志に、どうしても言う事ができなかった。

今まで、信志と共に夜を過ごしてきた黄杏。

もう、信志無しの夜など、考える事もできなかった。


「どうした?黄杏。今日は、元気がないな。」

そんな時は、信志は優しく髪を撫でてくれる。

この優しい温もりを、他の妃に分け与えなくてはならないなんて。

黄杏は心の中で、“もう一日だけ、許して”と、唱えた。


「信志様。今日は、お願いがあるのです。」

「どんな?」

信志は、黄杏の顔を覗いた。

「今日の夜は、激しく抱かれとうございます。」

信志は、目をぱちくりさせる。

「これはこれは……嬉しいお願いだな。」

「そうですか?」

「ああ。惚れた女に、そんなお願いをされて、嫌だと申す男などいない。」

この日は、いつもよりも早く、寝所に入った黄杏と信志。
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