艶恋オフィス クールな室長に求愛されてます
「ど、どうしたの?忘れ物?」

驚いて尋ねた私に、郁ちゃんがにっこりと満面の笑みを作る。


「言い忘れてたことがあります。まどかさんの一言だけ言わせてくださいね。」


「うん、何?」

郁ちゃんが私の返事を聞くや否や、大きく息を吸い込む。

「まどかさんのバカヤロー!!」

酔っぱらって呂律の廻っていない郁ちゃんが絶叫した。

タクシーの郁ちゃんの隣の席に座っていた祥子さんは思わず耳を塞ぎ、タクシーのドライバーは迷惑そうな顔をしている。


私の周囲を歩いていた人たちは、何事かと好奇の視線を私に向けている。

バカヤロー呼ばわりされた私は、驚きを通り越して唖然としてしまう。


一人スッキリした表情を浮かべているのは郁ちゃんだけ。

郁ちゃんはそれだけを言うとタクシードライバーに行き先を告げ、私に上品に手を振って去っていった。

郁ちゃんと祥子さんを乗せたタクシーはあっという間に、街の光の中に消えていった。
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