明日、海を見に行くからね
新聞配達のひとと見紛うような早朝にいきなり愛車でうちまで乗り付けたかと思えば、彼は「さあ行こうか」なんて言い出した。


相変わらず、B級の青春ドラマで使い古されたようなことを気まぐれにやりたがる人だ。


「……別にいいけど、何だってあなたは事前に連絡するってことをいつまでも覚えてくれないんですか」

「5年付き合って無理だったんだから、もう諦めたほうがいいな」


文句を言ったところで何処吹く風だ。


11歳も離れた年上の恋人は、いつまでも少年の心を忘れることができなかったような人で、不惑を越えた今でも思い出したように奇想天外なことをしでかしてくれる。


そのくせ伊達に一回り離れているわけでもなく、時たま大人の包容力なんていう大層なモノを小出しにしてくるから性質が悪い。


ギャップ萌えなんていう言葉は彼のためにあるようなものだと思ったりもする。


彼が一度決めたらいかに動かないかは、5年という交際期間でいやというほど身に染みていたから、大人しく後部座席に乗り込んだ。


まぎれもなく恋人同士であるはずの彼と自分ではあるが、なぜかドライブの時は縦に並んで座るのが当たり前になっていた。


まあ、助手席でベタベタするようなキャラでもなければ年齢でもないから特に問題はない。


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