いつか羽化する、その日まで
Day 7 : 私、助手席は慣れていません。

香織と久し振りに語らった翌日は、いよいよ私、立川渚の外回りデビューの日と相成った。
社員の訪問先に同行するという、インターンとして勉強する場を設けてもらっただけなのだが、それでも胃がキリキリするほど緊張している。


「お、はようございます」


営業所の入り口までたどり着くと、誰かの影が見えたので挨拶をした。足元がふらついたが、何とか堪える。昨日、なかなか寝付けなかったせいだ。
頭上からは夏の、光線のような日光が降り注いでいる。


「おはよ。今日は僕の勝ちだね」


勝ち誇ったような声に顔を上げると、腰に手を当てて仁王立ちしている村山さんとエンカウントしていた。彼の横に鎮座している袋は、落ちた草葉が集められたものだ。つまり、既に掃除が終わったことを示している。


「早い……もう終わったんですか?!」


私は、思わず悔しさを滲ませた言葉を口から放ってしまっていた。それを聞いた村山さんは、余裕の笑顔を浮かべる。ーーしまった、言うつもりはなかったのに。

本日村山さんが着ているシャツは一見シンプルな白いボタンダウンだったけれど、ボタン部分が黒で全体的に締まった印象を受ける。細身の形がよく似合っていてお洒落だ。


「僕だってまだまだ若いところをアピールしないとね。サナギちゃんのストライクゾーンって、思いのほか狭そうだし」


……本当に、黙っていれば素敵なのに。


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