番犬男子
幸汰にとって、双雷と侍……お兄ちゃんだけが、大切な存在。
あたしは味方でもなんでもない。
なのに、お兄ちゃんが、幸汰にあたしをサポート係として同行させた。
あの2人の顔を知っていて、行動も読める。
そんなことのために人数を増やしてまであたしを連れて行くなら、写真を持っていったほうが効率的だ。
それに、行動を読めるあたしがいなくとも、幸汰ならなんとかできるだろう。
実際、あたしは何もしてないが、幸汰は強盗犯を打ちのめした。
要するに、真の目的は他にある。
「もしかして、お前が、」
あたしと同様に動けずにいるバイク男が、恐怖に震えながら、幸汰を見て呟いた。
「お前が噂の、双雷の“影”で動いてる、番犬か……?」
『双雷と侍を守るために、裏で敵を潰してる始末屋。そいつが侍にすげぇ従順らしいから、みんな「番犬」って呼ぶようになったんだ』
今までの幸汰の言動は、あまりにも、噂の番犬に当てはまりすぎた。
たとえ地元の人間であっても、番犬の正体を知る者は少ないらしい。
幸汰はバイク男を横目に射抜きながら、強盗犯の胸ぐらから手を放した。
地面に倒れた強盗犯は、生きた屍と化していた。