番犬男子




心なしか、お母さんの声色はいつもより暗かった。



たぶん、怖いんだろう。


あたしが“彼”と会った時、また“彼”を傷つけてしまうのではないか。



違うよ、お母さん。


あたしは傷を拡げるために来たんじゃない。


傷を治すために、はるばるやって来たんだ。




『千果』

「ん?」


『本当に、会いに行くの?』



何を言うかと思ったら……。


そんなわかりきった質問、聞いてこないでよ。



「会いに行くよ」



1秒の間もなく、はっきり答えた。




『本当に本当にいいの?あっちはあなたのこと……』


「だからこそ、でしょ?」




わざとかぶせて言うと、お母さんは口を閉ざした。



< 9 / 613 >

この作品をシェア

pagetop