再見
 日曜日。空は澄み渡り、空気は冷たく祥子の痩せた頬を刺激する。
遠くの方にぽこんと小さな雲がひとつ、前ぶれもなく浮かんでいた。
それはあまりにもくっきりと、まるで幼児の描いた絵のように、
鮮やかで、少し得意げだった。
―気持ちがいい。
 祥子は昔からこの『くっきり雲』が好きだった。
もやもやと、空と青と曖昧に混じり合う雲は、現実的すぎてあまり好きじゃあない。

「なんだ、わざわざ迎えに来たのか。寒いだろ」
「お兄ちゃん!」
地下鉄の駅で兄の優しい顔を見た時、
祥子は自然に笑顔がこぼれた自分に少し驚いた。
泣いてしまいはしなくても、口をへの字に曲げた顔で、
甘える自分を想像していたからだ。
「少しは肉が戻ってきたな」
圭介は長い指で祥子の頬をつまむ。
「おばあちゃんもママもご馳走作って待ってるよ」
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