お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「待合室の本を借りに来たの。部屋で待ってたけど退屈で」


誰をとも言わず、目線をドクターに向けてる。
彼は小さな声で、そうか…と言い、女性はそうよ、と返事をしてからファッション誌を一冊取り上げた。


その視線が上がり、こっちを見てから瞬きをする。
あら…と言うような口元に変わり、アルトトーンの声が響いた。


「その方は?」


雑誌を胸に抱える格好をして聞く。
ドクターの視線がちらっと私を見遣り、直ぐに前へ戻った。



「患者。足を挫いてね」


そう答えると彼女の目線が下を見て、右足に巻かれた包帯に気がつき、まあ大変…と囁いた。


「大丈夫ですか?痛くない?」


親切に聞き返してくる彼女にどんな顔を向ければいいか分からない。
仕方ないから俯き加減になり、「平気です」と言った。


「歩けます?もしも良かったら送りましょうか?」


貴女が?と聞きたくなり、こんな綺麗な人に送られたら落ち込んでしまいそうだと思った。


「大丈夫です。湿布も貼って貰いましたし、歩いて帰れると思います」


< 119 / 203 >

この作品をシェア

pagetop