ある雪の降る日私は運命の恋をする‐after story‐
「いいえ。……知らない…とは言わせませんよ。あなたも、ちゃんとした一人の大人でしょう?そのくらいの責任は負ってください。」

「あ"?じゃあ、なんだよ。もし、裁判とかになったら証拠はあんのかよ。おい。口だけじゃ、どーにもなんねーんだよ。」

「証拠なら沢山ありますよ。まずは、朱鳥さんの体に今でも残ってる沢山の古傷。そして、トラウマについての診断書。色々あります。……でも、裁判沙汰にしたいわけじゃないんです。さっき、こいつも言っていましたけど、朱鳥さんは、初対面の大人に恐怖を覚えています。酷ければ、涙を流して過呼吸になり、最悪、呼吸困難にもなりかねません。…なので、話し合いで決着をつけたいんです。わかっていただけますか?」

「……さっきから、聞いてれば、トラウマ、トラウマって。トラウマなんて、誰しもひとつくらい持ってんだろーがよお」

「…そうですか。まずは、あなたにトラウマの重さを知ってもらわないとダメみたいですね。知っていますか?トラウマって立派な病気なんです。PTSD、心的外傷後ストレス障害といいます。僕の働いているクリニックには、毎日沢山のPTSDを抱えた患者さんが来ます。……残念ながら、僕のクリニックに通い始めたその直後、自殺してしまった患者さんだっています。……PTSDは人を死に追いやる、怖い病気です。その事をご理解頂けませんでしょうか?」

「…はぁ…………。なんなんだよ、お前ら。本当に。その、Pなんとかって言うやつのことはわかったよ。でもよ、話し合って何をしよーってんだよ。こんな俺に会っても、さらにそのPなんとかを深めるんじゃねーの?」

「その可能性は大いにあります。朱鳥さんがあなたと会って面会することは、PTSDを重症化させる可能性もあり、逆にPTSDを軽くさせる可能性も沢山あります。もし、あなたが今のその心理状態を改め、朱鳥さんに"この人はもう何もしてこない" "もう、怖いことはないんだ"と思わせられたら、PTSDは劇的に回復します。ですが、今のあなたに会わせると、重症化するでしょうね。なので、あなたには、少し心を改めてもらいます。」

「あっそ。でも、いいの?心が改まった振りして、会った時に、また、沢山暴言吐いたらどうなるとおもう?お前らから"大丈夫だよ~怖くないよ~"とか言われてきたら、暴言吐かれるんだもんなー、お前らの信用も全部なくなんじゃね?」

「……………………ふざけるな」

険悪な雰囲気の中、小さく口を開いたのは楓摩。

落ち着いた口調ながらも、殺気がすごい。

「さっきから、こっちが黙ってれば、いいように言ってくれんじゃねーかよ。ふざけるな。お前も、朱鳥と同じ目に合わせてやろうか?あ"?それで、朱鳥が救われるなら、俺は犯罪だって犯してやるよ。朱鳥がやられたみたいに、殴って、蹴って、食事も与えず、毎日罵詈雑言を浴びせて、踏んで、切りつけて、縛りつけて、タバコ押し付けて……全部やってやろうか?それを10年だぞ?毎日やってやるよ。そしたら、少しは朱鳥の気持ちもわかるんじゃねーの?寝る度に、暴力を振るわれる夢を見る辛さ。人に相談することも辛くて、全部一人で抱え込んで追い込まれて、自分の手首を切ったり、首絞めたり。お前は、もっと自分のやったことの重さを知れ。毎日、苦しーよ?周り全部が敵に見えるんだって。外を一人で歩くことも出来ないのは、通行人すら、自分に暴力を与えてくる人に思えるから。そんなことあるか?本当にふざけんじゃねーよ。俺の大切な妻が傷ついてんだよ。……いい加減にしろ!!!!!!!」

ドンッ

と大きな音を立て、立ち上がった楓摩は、そのまま、扉から出ていってしまった。

相手を見ると、楓摩の殺気に押されたのか、少し固まっていた。

「……これで、少しは、わかってくれました?普段、温厚で、怒ることなんて1年に1度もないアイツをあんなに怒らせているんです。もう少し、態度を改めてください。…それでは、失礼しました。」

俺も、そう言って、少し相手に睨みをきかせてから、部屋から出た。
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