トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
12 Family?
拓真は妹の帰宅を報せる靴音に気付き、それまで進めていた作業を中断した。


犯人さえ突き止めてしまえば後は簡単なもので、事務所や警察への対応を淡々と進めていたところだ。


「お帰り。

もう心配はいらない。これまで辛かっただろうけど、もうすぐ終わる。……終わらせるから。」


「ありがとう。でもお兄ちゃん、無理しないでね。」


瑞希の表情は晴れない。


その要因は分からないけれど、何より優先すべきは瑞希を脅かすものを排除すること。それが済むまでは他にとらわれている余裕はない。


* * *



あれからすぐにCM撮影があった。海でのロケに先だってスタジオ内での撮影が行われる。それと同時に、天候で撮影が左右されやすい海での撮影に備えたリハーサルも実施される予定だ。


俺も関係者を装って撮影に参加している。

クライアント企業のプレスとして見えるように、スーツを身に付け首に身分証まで下げているのだが、瑞希には「どう見ても余計に目立ってる」と言われた。そう言われてもこの際仕方がない。



篤はヘアメイクを数パターンを試しながら、スタッフと談笑している。犯人がメイクスタッフの一人として参加しているので、おそらく様子を窺っているのだろう。

髪の一部を留めて「編み込みも可愛い、似合う!」とスタッフが盛り上がっていた。


会場内には十分な防犯カメラと、警備スタッフが配置されている。女性警備員も混ざっているようだ。所々に見慣れない顔ぶりがいるのはそのせいだろう。


先日集めた情報は、証拠としては十分ではない。


素人が調べた結果を伝えても、警察は逮捕や家宅捜索をするわけにはいかない。

警察の捜査は依頼済みだが、できれば、今日にでも現行犯として押さえて、早急に解決してしまいたい。
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