トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「そんなことは……ないです。

私は、篤さんにちゃんと誠実になりたかっただけ。」


「殊勝な心掛けだと思うけど、そんなの要らない。

好きでも何でもない俺で淋しさを埋め合わせたって、誰も責めないよ。俺がそう望んでるんだから。」


頬に両手が添えられた。少しひんやりとしたその手の感触で、却って躰が熱くなる。


「好きでも何でもないわけ、ないじゃないですか。


上手く言えないけど……兄を好きな気持ちとは違くても、篤さんは、私にとって特別で、大切です。

篤さんのことを考える時間が段々長くなって、そういう自分に唖然として……私は、この気持ちは……」


目が合うと、時間が止まったように見つめ合ったままだったけれど、篤さんの方が先に目をそらした。


「何だよそれ。死ぬほど嬉しいけど、この状況でそんなこと言うのは無しだよ。

前にもちゃんと警告したつもりなんだけど。もう少し俺に警戒心を持てって。」


首筋に唇が押し当てられて、甘くて逃げ出したいような震えが全身に走った。くすぐったいような熱さは舌を滑らせているのか、見えない動きに翻弄されて身体が跳ねる。


「……っ……んっ」


「君に優しくしたいと思うけど、無防備過ぎると腹が立つ。

それとも本気で俺に抱かれたいとか思った?」



「それは、違っ」



「それなら、そういう顔を見せたら駄目だって覚えておいて。」


今度は首筋に強く吸い付くように唇をつけられる。さらに歯が立てられて痛みが走った。


「痛っ。いたい……っん」


「痛そうな声はそそるから駄目。」



まだ離してくれる気配はなく、篤さんは吸血鬼が人を食むように首筋に吸い付いている。


「……っ、言ってること、めちゃくちゃです。」


やっと唇を離してくれた篤さんは、見慣れた意地悪な笑顔だった。


「これでも、ものすごく寛大なつもりなんだけど。

色が白いからはっきり痕が残ったね。」



「全然寛大じゃないですよ……。」


「どうせ家に引き籠ってるんだから支障無いだろ。

誕生日くらいまでは、痕が残るかもね。」
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