トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
兄がいた。


もう二度と会えないと思っていた筈の兄が確かにそこにいて、どういうわけかレストランのウエイターをしていた。



「あいつ、腹立つ程に夏を満喫中だな。あの日焼け。」


篤さんがからっとした笑い声をあげる。


夏の日を浴びる兄の姿は現実感が無いほど眩しく見えたけれど、お客さんと談笑する笑顔は柔らかく、よく知る兄の表情そのものだ。


「ちゃんと、生きてたんだ……笑ってる……。

良かった。」


「待って、まだ泣くな。化粧崩れるから。」


嬉しくて、いろんな感情が溢れて涙がこぼれそうになると、篤さんが慌てて押しととどめる。


「どうして……ここにお兄ちゃんが?」


「何でだろね。あいつ、撮影で沖縄に来た時にやたらと気に入ってたからなぁ。」


「それに……どうやって分かったんですか?兄がここにいるって。」


「俺が手を尽くせば、これくらい何てことないし。」


篤さんが悪戯っぽく笑う。


「でも拓真は、もうすぐここを立ってイタリアに行くらしい。

だから、引き留めるなら今しかないよ。」


「イタリア……!?

もしかして篤さんは兄と連絡とってたんですか?」


「いや全然。最後に話したのは入院中だよ。

だいたい俺が連絡したらあいつ逃げるだろ。」



兄を眺めていた篤さんが、私に向き直った。



「だから、俺がしてあげられるのはここまで。

あいつを探し出すことはできても、繋ぎ止めておくことはできないよ。


それができるのは君だけだ。

誕生日プレゼント、欲しいものがあるなら拓真からちゃんと貰って来い。」
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