トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
20 エピローグ
トスカーナ州 フィレンツェにて。

黒須 拓真は先程から鳴り止まない携帯のメッセージ着信音に、眉間の皺を寄せた。


「うるさい」


しかしこの表情は只のポーズである。彼に尻尾でもあれば、それは今パタパタとせわしなく揺れているに違いない。


その証拠に拓真は、あと数分も歩けば居住を移したアパートメントに辿り着くというのに、足早に手近なバールへと向かった。


コーヒーを注文した後、携帯を取り出して苦笑する。





篤:はいさーい!

篤:なんくるないさ~

篤:撮影の待ち時間で暇だ。相手して

篤:モラトリアム満喫中なんでしょ? こっちは毎日仕事だってのに





運ばれたコーヒーに口をつけながら、返信を打つ。

メッセージを送信するとすぐに返信されるので、その応酬は長く続いた。




拓真:この歳でモラトリアムとか言ってられないよ。急にどうした?


篤:俺は特に用事ないけど、拓真の方が俺に言うことがあるんじゃないかと思ってね。 いや、お礼とか別にいらないよ?


拓真:わざわざ催促してくるんだ……

拓真:でも本当に感謝している。ありがとう。


篤:別に拓真の為にやったことじゃないけど。


拓真:それでも篤には、一生頭が上がらないよ。


篤:ふふふ。そうだよね?

篤:あくまで結果的にだけど

お前に絶大な、生涯かけても回収できないくらいの


貸し


を作ってやったことは認めてもいい。




拓真:本当にお前は怖い奴だ。

拓真:ひとつ聞きたいんだけど、どうやって俺の居場所が分かったんだ?


篤:俺にかかればその程度楽勝なんだよ。この俺を出し抜こうなんて100万年早え。
< 231 / 235 >

この作品をシェア

pagetop