トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
映画の公開スケジュールを確認すると、今年の年末が予定されていた。

イタリアでの長いクリスマス休暇と重なれば、多少は日本に帰ってこれそうだ。




篤:そうだ、そんな話をしたかったわけじゃないんだよ。どうしてこのタイミングでイタリアなんか行くかなー。

篤:俺なら絶対行かないけど

篤:付き合った初日から遠恋とかあり得ないでしょ。


拓真:瑞希には悪いと思っているけど、これは俺なりのけじめというか。


篤:けじめ? 随分余裕かましてるな。


拓真:学ぶべきことを学んだら急いで帰るよ。


篤:俺は優しいから忠告しておくけど、人の絆って案外脆いもんだよ。これからは家族じゃないんだから尚更ね。


拓真:うん、改めて胆に銘じるよ。

拓真:でも家族じゃなくなっても、これからは婚約者だ。


篤:へぇー、婚約者。いい響きだ。


拓真:俺もそう思う。


篤:明らかに他人の女と書いてあると、余計にそそるよね。




「え」


コーヒーカップを落としそうになったところを、ぎりぎりで回避する。


動揺を収めるために、咳払いをひとつ。





拓真:冗談だよな?


篤:芝居の中では婚約者っていうとお決まりのパターンで、だいたい他人に奪われるストーリーでしょ。


拓真:芝居の中の話だよな?


篤:さっき言った通り、俺なら絶対行かないけど。この俺が東京にいるっていうのに、余裕かましてるなーって。


拓真:悪い冗談やめてくれ。

拓真:友達の婚約者に普通は手を出さないと信じたいんだが。


篤:ほら、「友達の婚約者」って響きはそれだけで筋書きが想像できるっていうか。要は禁断の関係ってこと?


篤:だから休みが取れたら、観光がてらそっちに遊びに行くよ。瑞希ちゃんと一緒に。


拓真:どの辺が「だから」なんだ。来なくていいよ。
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