トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
何にせよ、まずは瑞希にこの危険を知らせることが先決だ。リビングに戻ると、瑞希はちょうど風呂から上がったところだった。


「お兄ちゃん。やっぱり顔色悪くない?

お茶淹れるから、ちょっと休みなよ。」



「そうか? 思ったより疲れてるのかな。

ありがとう、貰うよ。」


しばらくすると、瑞希がキッチンからティーカップ二つを手にして戻ってきた。


テーブルに撮影の資料が広げられているのを見ていると、


「ああ、それ? お菓子のCMの二作目の設定なんだ。

何と今回は篤さんだけじゃなくて私にもセリフがあるんだよー。」


この会話は危険だ。今も何処かで犯人が聞いているかもしれないのに。


「そっか」


「海でロケするって聞いたから、緊張する。」


「海?


…………ってまさか、水着で撮るのか!?」


それは聞き捨てならない。この状況も忘れて詰め寄ってしまう。


「それはまぁ、そうなんだけど。

さすがにちょっと恥ずかしいから、ちゃんとできるか心配で。」



嫌だ。そんな格好は誰にも見せたくない。篤の隣にいるだけで耐えられないんだ。


その言葉をやっとの思いで飲み込んだ。




「…………それなら、俺が練習相手になるよ。

風呂場なら水もあるし。ほら行くぞ。」


「え。…………えぇ? お兄ちゃん!?本気?」


瑞希の目が見開かれて、顔が真っ赤に染まる。



少し無理がある提案だったかなと思いながらも、これから瑞希に伝えなければならない内容を思って、胸が傷んだ。
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