鬼部長に溺愛されてます
叶わない恋心


窓の外を白いものがチラチラと舞っていることに気づいたのは、会議室へ向かう途中の通路でのことだった。
三月上旬、今シーズン何度目かの雪が灰色の分厚い雲から吐き出され、少しずつ街を白く染めようとしている。

私、水原麻耶(みずはら まや)は帰りのことを心配しながら足を止めた。

天気予報では積もることはないと言っていたけれど、この様子だとわからないな。
せめて残業はしないで帰ろう。

【パールクリエイト】は創立四十五年の日用品メーカーで、取り扱うのはトイレットペーパーや洗剤などの生活雑貨が主。
従業員数は千人弱で、オフィス街に建つ三十階建てビルの十階から二十階に入居している。

私はそこの十二階にある総務部に所属し、社内の備品管理や施設の利用状況を管理する仕事を担当。
入社してもうすぐ丸三年の二十五歳だ。

小さく黒目がちな二重瞼に小ぶりな鼻という、どちらかといえば地味な部類の顔立ちで、自慢できることと言えば、色白なところだけ。
肩甲骨までの髪は少し癖があり、緩くまとめていることが多い。


「麻耶、ごめんごめん。早く準備しちゃおう」


通路の向こうから走ってきたのは同期の如月ミオリ(きさらぎ)だった。
< 1 / 132 >

この作品をシェア

pagetop