恋におちる音が聞こえたら





 数分前、“水やりお願いね”とかわいらしく微笑んでいたハナさん。……あたしはどうやらその笑顔にしてやられたらしい。

 彼女はあたしと桐也を二人きりにさせたくてわざと外に締め出した。あのときあたしがついた嘘を見抜いてて、桐也と仲直りさせるためか、もしくは…………いややめておこう。



 ……そのまま立ち尽くしていても仕方ないので渋々ながら桐也の隣に座った。彼との間には一人分座れるスペースを空け、顔は……できるだけ見ないように……。…………なんであたしはこんなに緊張してるんだ……。



「勘違いしてた」



「…………え?」



「……怒鳴ったりして悪かったよ」



「ぁ、……あー、…………ううん。気にしてないから」



 そう言うと桐也は肩の力を緩めて小さく息を吐く。……意外、気にしてくれてたんだ。



「……でもまさか仮病オンナが居候してくるとは思わなかった」



 けッ、……仮病オンナ?!?!



「……っ、……あたしも、“あんな”失礼なことしてくる男の家に居候するなんて思わなかった」



 少し声を尖らせながら言い返すと、桐也は思い出すように“あー……”と声をもらす。それからクスと笑みを浮かべ、こう続けた。





「そういえば、仮病移らなくてよかった」





「っ……――――はいいいッ?!?!」



「居候が俺にそんな口きいていいのか?」



 そう言うと桐也はあたしのおでこを指で弾く。ぺちっと音がした直後、額に痛みが走った。



「~~ッ……なにすんの?!」



 涙目で桐也を睨みつけると、彼は口元に手を当てて楽しそうにクツクツと笑っていた。きれいな顔なのがまた癪にくる。

 ……こいつと一ヶ月も同じ屋根の下なんて……もう、不安しかない…………。堪らず心の中でため息を吐いたあと、桐也と目が合った。



「よろしく居候」



「……よ、……よろしく……お願いします」



 ……数日後、あたしの不安はひと回り大きくなって的中するのだが、このときのあたしはそんなの知る由もなかった。





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