素直にバイバイが言えるまで
去年の夏、彼は私にこう言ってくれた。


「オレさ、ちゃんと結婚とか考えてるから」


ーーえ?


唐突ではあったけれど、いつもと同じ優しい声だった。


私は夕食の支度のために台所に立ったばかりで、その声にちゃんと振り向いて顔を見ていない…というか、驚きすぎて見ることができなかった。


でも、きっと、穏やかな笑顔で私のことを見ていたに違いないと思う。

彼は…龍吾は、それくらい優しい人だった。
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