名探偵の導き


母がつけてくれた光一という名前。その名の通り、スポットライトは常に僕に当たっていた。


本来なら顔や名前が世に出回るのはよろしくないであろう。それに探偵が殺人事件を解決するなんて二時間ドラマの世界だけ。


探偵は浮気や所在調査。家出人の捜索。法人からの人事や市場調査。そういったものを依頼され報酬をいただくもの。


ただ、僕の場合は違う。よく殺人現場に出くわす。そして警察が来る前、あるいは未解決事件になりそうなものを真相へと導く。


ある種の勘と確実な証拠による立証。それにより、犯人は上辺だけを取り繕うように自供を始める。


警視庁の幹部たちはこの感覚を赤沼光一の特殊能力だと言っている。




バロンと散歩中に公園で遺体を発見。


被害者は松下菜奈、女子中学生。


容疑者は上川信彦。菜奈の担任教師だった。


菜奈は上川を信頼し、家庭の事を相談していたという。上川は菜奈と二人きりになるシチュエーションを何度も作り出し、菜奈に偽りの恋愛感情を抱かせた。


「私、先生の事が好きです」


上川は一体どんな気持ちで菜奈に告白をさせたのだろう。それでも満足できずに菜奈を殺害した上川の気持ちなど理解できるはずもなく、僕はただ、星空を見上げる度に菜奈を思った。


ちなみにバロンは、たれ耳にクリンとしたつぶらな瞳、ピンと立ち上がったしっぽが愛らしいビーグル犬だ。


その後も浮気調査で訪れていたホテルで発砲事件が起きたり、ゲストで呼ばれたテレビの生放送中にセットが爆発し、死者が出たり。


何度も血を見てきた結果、臭いや恐怖、背負いきれないなにかが僕の安っぽい脳内で薄れながら乱雑に収納されていった。


もう星空を見上げる事もない。見上げた所でなにも思わない。いや、なにも思いたくない。



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