メトロの中は、近過ぎです!
「浦安」

タクシーに乗り、行先を告げた大野さんは、頬杖をついてずっと外の景色を見ている。

なんでそんなに冷たい態度なんですか?
私、何かしました?

酔ってる頭をフル回転させるけど、まったく身に覚えがない。

少しでも手がかりを探そうと大野さんを見ると、
ネオンに照らされた大野さんの横顔が美しかった。

街の光が動いていく度に、整った顔に陰影を落として
薄暗い中、スポットライトに照らされた俳優というか、映画のワンシーンみたい。

節ばった手首も、憂いを帯びている瞳も、それだけで絵になる。

社内の人じゃなかったら、恋に落ちてしまってたかもしれない。

ふと大野さんが振り返った。

瞬間、私を捉えた瞳に、心まで捉えられてしまう気がした。

胸の鼓動がうるさい。

「おまえさ…」

いきなり、おまえ呼ばわりですか?
そんなに一気に距離を詰められても、しかも大野さんは社内の人だし……

「おまえ、気付かないの?」

……え?気付く?

どういうこと?

やっぱりそうなの?

そういうこと?

いいえ、気付いてましたよ。

やっぱり『ふちがみはるとくん』だよね?

最初っから気付いてました!
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