御曹司のとろ甘な独占愛
 一花は呼吸を忘れて、背の高い彼と視線を合わせる。
 ――彼の氷のような美貌は崩れ、くっきりとした二重瞼が大きく見開かれた。

 そこには、大きな感動に打ち震えたかのような、黒橡色の瞳が輝いていた。
 涼しげな目元が、わずかに薄紅色に染まる。そして、なにか……とても眩しいものを見ているかのように、彼はそっと目を細めて、微笑んだ。

 喉の奥が、きゅっと締めつけられる。

「あっ……」

 一花の唇から、音がこぼれる。目の奥が熱くなり、息が苦しくなった。

(わあ……! なんて綺麗な表情をする人なんだろう……!)

 彼の双眸に、じんわり、じんわりと涙がにじむ。
 そうして彼はゆっくりと、長い睫毛を瞬かせ……。最後に一度、涙を飲みこむように長く瞼を閉じた。
 次に瞼を開いた瞬間には、彼の双眸に意志の強そうな虹彩が煌めく。
 きゅっと口角が上がった形の良い唇が、吐息を吐くようにそっと開いた。

「台湾出身の、ハクエイ・リュウです。十二歳です。よろしく」

 王子様のような儚げな外見とは裏腹に、優しく、静けさにしみわたるような低音。こちらが言葉を発することを戸惑ってしまうほど、柔らかく甘い声音だった。
 鼓膜が震え、心臓がドキドキと鼓動を早める。

「イチカ・ヤマゴエです。日本から来ました。十歳です。……よろしく、お願いします」

 一花は、握手をしようと恐る恐る手を伸ばす。

 握手をした瞬間。
 ――彼は今にも泣き出してしまいそうな顔で、美しく破顔した。
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