御曹司のとろ甘な独占愛
 一花はテーブルに置きっ放しにしていたマグカップを手に取って、それを飲むふりをしながら、真っ赤になった顔を隠す。

 急に火照ってきた顔を隠すようにうつむくと、伯睿が「どうかした?」と声をかけてくる。一花は「どうも……してません」と答えながら、きっと真っ赤になっている顔が隠せていないだろうと思った。
 マグカップを手の中でころころと転がしながら、一花はうつむきつつ外方を向く。

「……今から俺、少しおかしなことを言うかもしれない」

 伯睿の声が思いの外近くから聞こえて、一花は肩をビクリと揺らした。いつの間にか、体が触れ合うくらいの距離まで近づいていたことに気がつき、一花は思わず息を止める。

(ち、近すぎ……っ! それに……っ)

 熱っぽい視線をした伯睿が一花を見つめている。その王子様のような美しい表情に、一花は目を瞑ってしまいたかった。そんな気持ちのまま、伯睿の言葉を待つ。

「なんだか……イチカって、すごく可愛いんだ。困るくらい、本当に可愛い」

 伯睿は困ったような表情で、耳触りの良い低音を転がした。
 形容しがたい表情で淡く微笑む彼を、一花は上手く直視することができない。

「え……っと」

 男の子に可愛いなんて言われたのは、人生で初めてだった。一花は氷のようにカチンと固まって、潤んでしまった瞳をパッとそらす。

「本当のことなんだけどな」

 そう言われて、なぜだか体中が熱い。心臓が跳ねて、喉に詰まったみたいだった。
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