妄想は甘くない

どうにかしくじることなく要点を交わし、通話を切った。
手元には、走り書きした大神さんの社用携帯の番号。
見つめていると今になって、じわじわと胸に込み上げる熱い情動を感じた。
にやにやと緩んでしまいそうな頬に左手を当て、周囲に悟られない様、必死で抑えた。

“それは大変だ。 よろしくお願いします”

脳内に大神さんの声が、エコーが掛かったようにこだまする。
たったこれだけのやり取りで、浮き立ちそうな心がだだ漏れになってしまいそうで、周辺への警戒を強めた。

……って、いやいや。大神さんはただの目の保養であったはずで。
たった3週間、それも必要最低限の業務連絡を取り合うだけの相手で、よこしまな気持ちで取り組んでいては骨折した関根さんにも失礼だ。

自分に言い聞かせると、気持ちを切り替えるべく咳払いをして、プリントを捲りキーボードを叩いた。

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