僕の肺をあげるから、君の心臓をちょうだい

「『渡未咲来』」

急に名前を呼ばれて、私は目をしばたかせた。




「あ、ごめん。そこに書いてあったから」


少年が謝罪しながら指を差す。指を差したのは、さっき私が閉じたメモ帳の表紙だった。
ふりがなもふっていないのに、間違われずに読まれたことは初めてだった。




「本をよく借りてた子だよね?
俺もよく本を借りるからさ、その名前よく見てて。
渡未さんって、君だったんだ」

そこでなぜ読みあてられたのかを納得する。


「じゃあ、君が『佐波琢磨』君?」

私が名前を確認すると、今度は彼が目をしばたかせた。


「俺のこと知ってるの?」
「君の名前もよく見かける」
「へぇー、覚えててくれたなんて意外」
「男子なのによく見かけるなぁって思ってた」
「あ、それ男子に対する偏見だよ」

彼がムッとほんの少し眉を寄せる。
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