好きでいいかも……
 二週間ぶりの職場復帰だ。

 自分のデスクに座りパソコンを開く。

 山積みの資料から、急ぎの物を抜き出す。


 パソコンのキーボードに触れようと思った手を、鞄へと伸ばした。

 鞄のポケットら、可愛らしい便箋に書いた手紙を取り出す。


 カイトへの物だ。

 急用が出来て日本へ帰って来てしまった事と、ケアンズで一緒に過ごしたお礼を書いた。

 迷ったあげく、会社の封筒を一枚拝借する事にした。


 そして、ジョンの名刺を出す。

 住所を書いているうちに、ある文字に目が止まった。


「ええっ!」

 思わず声を上げてしまい、周りのスタッフが何事かと顔を向けてきた。

 思わず、愛想笑いでごまかす。


 ジョンの名の上の役職が、社長となっている。

 ジョンは、あのホテルグループの社長だったんだ……


 思わず、肩から力が抜けてしまった。

 そんな凄い人が私などを相手にするははずがない……


 今考えると、あの金髪の女性、高そうなワンピースを着ていた。

 そりゃ、身分相応の彼女がいて当然だ……


 私は、住所を書いた封筒に手紙を入れた。


「おはよう理紗! オーストラリアどうだった?」

 後ろから、ひょいと顔を出したのは晴香だ。


「おはよう…… うん……。お土産あるから、後でね……」

 私は、自分が言葉に詰まってしまった事に、軽くため息が漏れた。


 伺うように私を見た晴香は、少し間をおいてから私の肩を叩いた。

「今夜飲みに行かない? お土産も欲しいし!」

 晴香は、私の返事も聞かずに、手を振って行ってしまった。


 デスクの上の書類を見下ろし、気合を入れなければ終わらないと、気持ちを切り替えた。
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