「・・くん」


「ん?」



しばらく沈黙が続いていたから油断していた。


呼ばれて初めて気が付いた。

ものすごく遠慮がちに、弱々しく俺の左腕の裾を松尾さんが掴んでいることに。




「ハヤタ君・・・」


初めて俺の事を名前で呼んだ松尾さんは少し伏し目がちになっていた。





・・・・さっきまで恋愛映画を見ていたから、
今松尾さんが何を考えているのか分かる気がする。


でも・・・これをしてしまったら・・・・もう絶対に後には退けない。



「・・・・」


裾を掴んでいた彼女の右手をそっと離すと、それを俺の左手で包む。






偽れ・・・・偽れ・・・・偽れ。

自分の気持ちを・・・偽るんだ。






「好きだよ、ミサキ」


右手で彼女の頬を優しく触り、こちらに引き寄せた。







恐らく、この子にとって初めてだったかもしれない。


この子にとって、とても大切な・・・


俺と出会わなければ両想いの・・・
いつか巡り会うその人とするはずだった、



大切なファーストキスを、


俺が奪ってしまった。




第11話 完
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