四季



ぺちぺち。
「おーきーろー」
頬を叩かれる感覚がある。しかもこれは、夏美?
ぺちぺち、ぺちぺち。
「おーきーろー、大樹。学校だぞ」
まただ。夏美が俺の頬を叩く幻覚が……。
ぺちぺち、ぺちぺち、ぺちぺち。
「おーきーろーよー」
「はっ!」
寝ぼけ眼で周囲を見渡すと、そこには夏美がいた。しだいに脳が覚醒して、はっきりと夏美が見える。
「おはよう、大樹」
「お、おはよう……。って何で夏美がいるんだよ」
「いやー、深夜に大樹に会おうと思って家の前まで来たものの、力尽きて寝ちゃった。朝、大樹のお父さんに見つかって、そのまま朝ごはんをご馳走になった。大樹のことよろしくって言ってたよ」
「……。よく風邪引かなかったな」
「バカな子ですから!」
「風の子にしとけよ……」
それからなんとなくふきだして笑ってしまった。夏美もつられたのかふきだして笑った。
時計を見ると七時。学校まで、まだ十分時間がある。俺は、ゆっくりと学校の準備をする。
「準備できたー?」
「ああ、できた。行きますか」
「いってらっしゃいませ」
「お前も行くんだよ!」
夏美の首根っこを掴み引っ張る。
「あうー」
家に鍵を締める。
「じゃ改めて、行ってきます。ほら、夏美も」
「行ってきまーす」
歩くこと二十分、ようやく学校に着いた。その間、会話はほとんどなかった。無理して会話しようとしないところはけっこう気に入っている。だから、あまり苦ではなかった。夏美はどうだか知らないが。
学校にある、大きな桜の木。そこに見覚えのある姿を見つけた。千秋だ。俺はそっと後ろから近づいた。
「よっ!」
「きゃあ!」
「そ、そんなに驚くなよ」
「ごめんなさい。急だったから」
「ごめんな。ところで、友達でも待ってるの?」
「まあ、そんなところ。それで、そちらの方は?」
「こいつは夏美。夏に美しいの字で夏美。仲良くしてやって下さい」
「千秋は、千に秋で千秋。よろしくね」
「よろしく……って一年生じゃん」
「実は、同い年」
俺は夏美にささやいた。
「えっ! あたしよりバカだなんて……」
「違う! 千秋は病気なんだ……」
「そうなんだ……」
「なんかごめんなさい。千秋、もう行くね」
そう言うと千秋は逃げるように去っていった。
「俺達も行きますか」
「そうですな」
夏美は先頭をきって歩く。その後ろを俺はついていく。





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