それもまた一つの選択

一つの人生が終わり、新たな人生が始まる - 都貴 -

遥が楽しそうに会話するので、拓海君も帰るに帰れなくなり、俺も職場に戻るのを止めた。

拓海君は顔だけ見たら帰ります、とあらかじめ言っていたのだが。

時計を見るともう13時を過ぎていた。

せっかくだから。
少し遅めのお昼ご飯を一緒に、と誘い近くの小洒落たレストランへ。

遥と拓海君は学校の日常的な様子を話しながら大笑いしている。
箸が転がっても可笑しい年頃なんだろうな。

たった2歳しか変わらないのに。

その楽しげな様子は少し羨ましかった。

俺は高橋とはよくつるんでいたがこんな楽しそうに過ごしていたかな。

遥が少し、羨ましい。

「そうだ」

拓海君は俺を見てニヤリ、と笑う。

「藤野さん、僕、今日バイクで来てるんですが。
寒いけど、ちょっと走りに行きません?」

チラッと遥を見ると頷いていた。

「いいよ、行こう」

拓海君とは何度か走った事がある。
でも。
この時、この誘いを断ってはいけない、と何度も自分の頭の中で警告が発せられていた。



「じゃあ、今井さん」

家に戻って、ヘルメットを手に取る。
玄関で拓海君は遥と何やら話をしている。

「また学校でね」

優しそうな笑みを浮かべて遥のお腹を見つめる。

「一つ、お願いしたい事があって」

こちらを見て拓海君は呟く。

「お腹、触っても良いですか?」

まずは俺に許可を願う。
俺は別に良いけど。

「遥さえ嫌じゃなければ」

遥は俺を見て微笑むと拓海君の手にそっと触れて、自分のお腹に当てさせた。

「わ、なんだかウニウニしてる!」

ちょうどお腹の中で暴れているところだったらしい。
最近、俺が手を当ててもそういう事がわかるようになるくらい、お腹の子は成長していた。

「春になったら産まれてくるんだよ。
まだ寒い時期は早いからダメだよ?」

まだ見ぬ子の事が見えているように、拓海君は微笑みながら話しかける。

「お父さん、お母さんはとっても優しい人だよ。
だから安心して産まれておいで」

遥のお腹を愛しそうに撫でて

「何となく僕は。
この、まだ生まれてきていないこの子が。
将来、バイクに乗りそうな気がします」

そんな事になれば俺は大喜びだけど。

「もし、一緒に走る事があれば。
走る楽しさを一緒に感じよう。
僕が君の先生になってあげるから」

遥は目を丸くしていた。

「…今井さん、今のは僕の楽観的な希望。
藤野さん、バイク好きだしこんな僕にも付いてくれるし。
藤野さんの事だから結構教育しそうだから。
その時は僕が面倒を見るよ」

そうなれば是非ともよろしくお願いしたい。
俺はバイクが好きだ。
でもレースに出られるような技術も度胸もない。
自分の子供がもし、やりたいって言ったら。
やらせたいな、なんて夢がある。
拓海君が付いてくれるなら。
そんな幸せな事はない。
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