それもまた一つの選択

既成事実を作ろうとするならば、覚悟しろ - 都貴 -

心臓が止まるかと思った。

ずぶ濡れの遥が使用人の城田さんと名乗る方に連れて来られたのは午後0時を回ったところだった。
高橋も久々にバイトがないというので二人で適当に料理して食べようとした時、インターホンが鳴った。

「藤野様、こんな事になってしまって申し訳ございません」

城田さんの開口一番がこれ。

グッタリとした遥の手首には圧迫した跡が残っている。

「トキさん、ごめんなさい…」

遥は泣きながらこれしか言わない。

「遥、このままじゃ風邪を引くからとにかくシャワーを浴びよう」

俺が遥の手をそっと握り締めようとしたら。
思いっきり払われた。

え、何で…?

「もう、触らないで!」

一番この場で驚いていたのは、遥だった。

「うわあ…。
ごめんなさい、トキさん」

この時点で遥がどういう事をされたのかわかった。

「遥、俺は何があっても遥を責めないから。
何があったのか教えて?」

首を横に振りながら遥は俺を見てポロポロと涙を零す。

「よーちゃん」

いつになく真剣な表情の高橋が

「藤野はよーちゃんが大好きなんだ。
今みたいな手を払いのけたりしたら、藤野、ハゲるくらいに悩むよ。
藤野だけには正直に話してあげて。
俺と城田さん、あっちに行くからさ」

そう言って高橋は城田さんと目配せをさせて隣にある自分の部屋に入って行った。

あいつのこういう所は本当に凄い。
感謝するよ、高橋。

遥はガタガタと震えているが、今はまだ抱きしめたりしても無駄だ。


「遥、見合い相手に襲われたのか?」

オブラートに包むと長時間の攻防になりそうだから単刀直入に言う。

「…少し話して、いきなり倒された」

遥はそう言って震えた手で鞄を開けてボイスレコーダーを取り出した。

俺はそれを受け取り、再生させる。
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