甘えたで、不器用でも



「こども」

「……」



右隣から聞こえてきた、聞き間違いでなければ私を馬鹿にしたであろう言葉。


心地いい低い声音で人を馬鹿にするなんてその素敵な声音に失礼だ。と言わんばかりにその声の主をじっと見つめた。


真紅色のソファに身体を沈ませ、優雅に足を組みながらマグカップを口に運ぶ声の主。私の彼氏様。


彼の飲むマグカップの中にはブラックコーヒー。私もマグカップに同じくブラックコーヒーに、スティックシュガーを2本入れた、要するにブラックではないコーヒーを彼の隣で飲んでいた。


そんな私を見た彼氏様は私に向かって“こども”とひと言。20歳の私に向かって鼻で笑いながらそう言ったのだ。



「ブラックを飲むから大人。なんて定義はありません」

「……」



甘いそれを喉に流し込みながら彼には視線を向けず、ぽつりと言ってやった。しかし、そんな私の華麗な反論を華麗にスルーした彼氏様。



「そもそもブラックでも、微糖でもコーヒー飲める時点でこどもじゃありませんから」

「コーヒー飲めるからこどもじゃない。なんて定義もないでしょ」

「……」

「てか、そもそも、スティックシュガー2本入ってるコーヒーを俺は微糖とは認めない」



せっかくの祝日。久しぶりにお休みが一緒で彼の部屋でまったりしていたというのに、たかがコーヒーの飲み方でこのあり様だ。


昨日、“明日家に来い”と言われたので、成人式に参加しないで会いに来たというのに。あまりにも理不尽じゃないか。


今日は1月の第2月曜日。祝日、成人の日。


昨年11月に誕生日を迎え、はれて20歳となった私は本日で成人の仲間入りだ。そんな大事な日にわざわざ家まで来たというのに、8歳年上の私の彼氏様はどうしてこんなにもドライなのか。


ちょっとかっこよくて、仕事が出来て、背が高くて、声が低くて、ブラックコーヒーが飲めるからって許されないからね。


と、取り立てて欠点のない彼氏様に太刀打ちできないことを再認識させられ戦意喪失。すっと、音にはせずに飲み込むことしかできない。


自分でも分かってる。


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