誓いのキスを何度でも
職員駐車場を並んで歩きながら

「桜庭…さんは車で来たの?」昔は車だったけど…

「駅からタクシー。家の車を使うとNシステムでどこにいるかすぐにバレるから…」

なるほど…

「えっと…私は軽に乗ってるの」と車の鍵をかざすと、キュッと音がして

赤い車のロックが解除された。どうぞ。と助手席を勧めると、

「果歩、運転すんのか?へー」と驚いた声を出しながら体を折り曲げて車に乗り込む。

「妊娠中に免許取ったの。夜勤とか誠太郎の送り迎えとか…」

「そうか。逞しくなったんだな。座席動かしてもいい?」と窮屈そうに足元を広げ、少し座席も倒した。

「あ、狭かったよね。…誠太郎しか乗せないから…」

「いいよ。アイツはこの車に乗ってないって証拠だろ。」と口を尖らす。

アイツって…シンさんの事だよね…

「…その人の話は後でいい?」

「詳しく聞くと、腹が立ちそうだから聞かない…誠太郎に早く会いたいし…」

「えーと。しばらく『父親』って言わないでくれる?
…死んだことになってるし…」

「ひでー。俺って死んだことになってるんだ。」

「後から会いたいって言われても…あなたに迷惑だって思って。
…ご両親は『ふさわしい人とお見合いさせる』って言ってたから…」

「俺が一緒にいたいのは果歩だけだよ」

「…その話も後でね」と私は息を吐いてエンジンをかけると
『secret monkey』の歌が大音量で流れ出す。

慌てて音楽を止めようとすると、誠一は私の手を掴んで止め、

「このまま聞かせてよ。
…俺も歌って良い?」と私の瞳を覗き込む。

懐かしい瞳。
懐かしい声。

私は我慢できず涙がこぼれ落ち、きつく噛んだ唇から嗚咽が漏れる。

「俺も何度も歌って果歩を思い出してた」

そう言って誠一は身を乗り出し、私の唇に唇を重ねた。

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