この手だけは、ぜったい離さない



1時間がこんなに短いなんて、これまでに思ったことがなかった。

一緒にサンドイッチを食べて、ほんの少し話しただけなのに。

もう休憩時間が終わってしまうっていうのだから。



まだちょっと……っていうか、ぜんぜん話し足りないんだけど…。



「んじゃあ、仕事戻るかな。わざわざ来てくれてありがとな、あかり」

「うん、頑張ってね洋くん」



洋くんは「おうっ」と右手をあげると、校舎に向かって走りだした。



校舎の前までついた洋くんは、お父さんから黄色いヘルメットを受け取ってかぶり、慣れた手つきで腰道具を装着している。



そして鉄の棒のようなものを担ぎあげると、校舎を囲む鉄製の階段をのぼっていく。

あっという間に校舎の4階の高さと同じ位置までのぼった洋くんは、危険と隣あわせだっていうのに恐怖心なんてこれっぽっちもなさそう。



あぁ……あんな高いところに…。

地上から10メートル以上はあるあの高さから、落ちたりしないか見てるだけでもヒヤヒヤするっていうのに…。



「あかりーっ、気をつけて帰れよーっ‼」



と大声で手を振ってくれた洋くんの表情は、遠くて見えないけれど。

笑顔で送りだしてくれてるんだろうなって思ったら、自然と頬が綻んだ。



「また明日ねーっ‼」



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