幾千夜、花が散るとも
11章
「ただいま可南。・・・体調どうだった?」

「おかえり。平気だよ、順調」

 野菜スープの鍋をお玉でゆっくり混ぜながら笑顔で振り向く。

 あたしの妊娠が分かって以来、遅くても8時前には帰るようになった一也。台所に入って来てまずあたしの具合を確認して。洗面所でうがいと手洗いを終えてから戻って口を繋げる。これが夜のルーティン。

「・・・千也は? 車ないけど」

 あたしごと食べられそうな熱っぽいキスが離れ一也が視線を傾げた。

「新しいお店の準備じゃない? 夕方から出かけたの。遅くなりそうだから先に食べていいって」

「ふぅん・・・じゃあ着替えてくる。可南は座ってなよ、俺がやるから」

「ハーイ」

 ネクタイを緩めながら2階に上がってく背中に返事して。サンマを2匹、ガスコンロのグリルに並べて火を点けイスに腰掛けた。

 何だか一也と二人だけって久しぶり。千也がいることに慣れすぎちゃって、いないとナンか足りない。・・・寂しい。一也がいればそんな風に思ったコトあんまり無かったのに。ゼータクが
身に付いちゃったみたい。感傷的な気持ちが沸いてそっと溜め息を逃した。


 

 洗い物も済ませ、ひと段落してお風呂に入ったあとは、ゆったりウェアでのんびり。もちろん一也の部屋で。千也の留守中はあたしは一也のもの。
 海とか宇宙のイメージなのかブルー系でまとめられた部屋は、本や小物が多いなって印象だたクッションが増えちゃったのは、あたしがベッドの上に座る時の背もたれ用に買ってくれたから。

「よっこいしょ」

 まだそんなに重くもないのに、つい口癖でそう言いながら躰を動かすと。一也がすぐ反応してクッションを移動させてくれたり。相変わらずの甲斐甲斐しさはお嬢様と執事です、まるで。

「可南、寝転がってていいよ。・・・ほら膝枕」

「ありがと」

 ずっと同じ体勢は怠くなるのを知ってるからベッドの上に横にならせてくれた。スェット姿で胡坐かいてる一也の膝に頭を乗せて、向かい側のテレビを観てたら。「あのさ」と静かに話しかけられる。

「んー?」

 ドラマがちょっとイイとこ、画面から目を離さないで生返事。

「・・・俺、転職するよ」

 テンショク・・・・・・・・・。えっ? 
 いきなりの方向からの変化球に、横向きからコロリと仰向けになってマジマジと一也を見上げた。

「会社でなんかあったの?」

 視線を落とした一也と目が合う。冷静な顔。

「無いよ、・・・ただ今の会社は遠いだろ? 千也の仕事がどうなるか知らないけど、可南はこれからの方がもっと大変になる。一人にしとく時間を減らしたいってだけ」

 つまりそれって。

「・・・あたしの為に辞めるってコト?」

「俺がそうしたいから」

 目を見張ったあたしに一也は事も無げに言った。 
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