Dear Hero
嬉しかったら”ありがとう”
あの視聴覚室での出来事から数日経った放課後。

帰り仕度をしながら、今日は哲ちゃん家でゲームやろうかなんて話をしていたら
担任に捕まっている水嶋が目に留まる。
教卓に積んであるのは、6限の授業で提出した課題のノート。
集めたくせに自分は手ぶらで教室を出ていく担任。

あー、これ。
絶対、職員室までノート持って来いって言われたパターンだなー、なんて推測。

案の定、自分の鞄を肩にかけると、顔の高さまである数十冊のノートをよいしょと持ち上げ、よたよたと教室を出ていく。

あのバカ。
頼れっつったのに。

担任も担任だよ。
あんなチビでひょろっこい女子にあんなん持たせるとか。


「悪ぃ!二人とも先、昇降口行ってて!」
「へ?大護どこ行くの!?」

急いで自分のリュックを掴むと、哲ちゃんの声に返答する間もなく水嶋を追いかける。
廊下に出ると、階段を降りようとする姿を見つけた。


「水嶋!」
「……澤北くん」

高く積まれたノートの隙間から、振り向いた顔と目が合う。

「お前はまたそうやっていいように使われて…。もっと人頼れって言ったでしょ」
「で、でもこれは私が頼まれた事なので…」
「だからって、そんな前も見えないくらいいっぱいのノート持って、階段から落ちたらどーすんの」
「落ちないですよ。慣れてます」
「…そーゆー問題じゃなくて」

思わず出てくるため息をかき消すように、積まれたノートの山を、水嶋の手から奪い取る。
2、3冊残ってしまったけど、そこはそのまま持っていってもらうか。

「あの…澤北くん!?」
「こうゆう力仕事は男にやらせとけばいーんだよ。んで?これ職員室?」
「あ、はい…」
「さっさと行くぞ」

これ、結構重いのな。
ぺらぺらのノートも、数十冊集まるとこんな重さに。
それをこいつはまた一人で持って行こうとしてたんだ。

今日だけじゃない。
きっと今までもこんな事は度々あったんだ。
俺たちが気付かなかっただけで。
< 14 / 323 >

この作品をシェア

pagetop