Dear Hero
と見せかけて、思いっきりデコピンしてやった。


スコーンッと乾いた音が響いて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔できょとんをする紺野。
その顔に堪えきれなくて、ぶはっと噴き出す俺。


「……え?」
「くくくくっ……なんちゅう顔してんだよ……」
「………ひどい…」
「びっくりした?」
「……したよ…」
「涙止まった?」
「………っ」

真っ赤に染まる顔を隠すように、両手で覆う。
怒ったような悔しそうな目で俺を睨みつける。
両手でだんだんその目を覆うように表情を隠すと、「……ありがと」と小さく呟いた。


「紺野に泣き顔は似合わねぇんだよ」
「………」
「……つっても、これは俺のせいだよな」
「………」
「………ごめん。突き放すような事言って」
「………」
「俺の事嫌いになった?」
「…っなる訳ないじゃない!」
「お前がずっと宙ぶらりんだったから、なんか腹立ったんだ」
「………」
「俺を振り回すのはいいよ。でも、自分の気持ちは見失うな」
「………うん…」


ぶわわっとまた涙が溢れてきたから、それをせき止めるように紺野の口にポテトを突っ込む。
あわあわと俺が押し込むポテトをどんどんくわえていくも、あっという間にいっぱいになる口。
「もう…むい…」と止めようとするのを無視してポテトを運ぶ俺。

「ん゛ーーっ」

鼻から叫んだかと思ったら、思いっきり頭をはたかれた。
スパァンといい音がした。
涙目で口の中のポテトを咀嚼して飲み込むと、「何してんのよ、バカ!」と怒られる。
それを見てケタケタと笑う俺。


「やっぱ紺野はそれくらい元気な方がいいって」

腹を抱えて笑う俺が今度は涙目になりながらそう吐き出すと、やっと紺野に笑顔が戻った。



気持ちはなくしたはずなのに。

あぁやっぱり。
俺は紺野の笑顔が好きなんだな。



「テツくんには……足向けて寝れないな」
「忘れられない男になっただろ」
「言い方がなんかヤラシイ」
「俺なんも言ってねぇじゃん。お前こそ何想像してんだよ、ヤラシイな」
「ひど…っ!信じらんない!」


あぁやっぱり。
こんな他愛もない会話の一つ一つが楽しいんだ。


消したはずの感情が、じわじわと戻ってくる。


「テツくんにはいっぱいお世話になったから、今度は私が協力する番だね」
「……何を?」
「約束したじゃない!私の恋が終わったらテツくんの片想い協力するって!」
「やだね」
「なんで…っ」
「俺は“気持ちよく終われたらな”って言ったんだぞ。お前のは無理やり終わらせただけじゃん」
「………」
「どうせダメなのはわかってんだろ」
「………」
「ダメでもダメなりにお前の気持ちぶつけろよ」
「………」
「それとも、お前の長年の片想いはなかった事にできんの?」
「……できない…」
「だろ?だったら、ちゃんと伝えろ。大護の中に少しでも紺野を残せ。お前の気持ち、無駄にすんな」
「………っ」
「最後まで、見届けてやるから」
「……っうん!」





俺の片想いは
再び走り始めてしまった。




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