Dear Hero
それぞれの夢
「…あれ。ダイくん?」

孝介が盛大に後出しで教えてくださった、夏休み中の文化祭実行委員の第一回目打合せ。
各クラスの実行委員が同じように集まる中、不意に隣からかけられた声に顔を上げる。


「…紺野」
「え、B組ダイくんが実行委員なの?意外だね!どうせまたヒーローショーやりたいとか言ったんでしょー」
「……ウルサイよ」

ポニーテールを揺らしながら、俺の触れて欲しくないとこをウヒヒっといたずらっ子のように笑いながら突いてくる。
こちらもそれが悪意があるものではなく冗談だとわかっているから、軽くあしらえる。

同じく今日来るはずだった男子が、部活の試合に勝ち進んだから来てくれないんだよね、なんて文句をぶーぶーたれてくる紺野の様子に、反対隣の水嶋がちらっちらっと横目で見ていてなんだか面白い。

「初めましてー。C組の紺野飛鳥です!ダイくんとは小学生の時から仲良くさせてもらってます!今日は一人で寂しいので仲間に入れてくださーい」
「あ、わ、は、初めまして!み、水嶋依です。よろしくお願いいたします…」

そんな水嶋の様子に気付いたのか、間の席の俺を挟むように自己紹介をしだす紺野はにこにこと笑顔で水嶋と握手する。
こうやって、人懐っこく初対面の人とすぐに打ち解けてしまう所は昔から変わってないな、と思うと同時に俺はと言うと、少し気まずい気分。


紺野は、小学生の時から始めた空手道場で出会った子。
道場の先生の娘のせいか、当時は男子相手にも負けない程強くて、俺も小学生の間は一度も勝てなかった。
その時はライバルとして、憧れてたんだ。
中学生になっても同じように競っていくのかと思っていたら、紺野は選手としてではなく男子空手部のマネージャーとして入部。
空手をちゃんと知っているからこそのサポートやアドバイスはとても的確で、それでいてこの人懐っこさで誰にでも分け隔てなく接する事から、空手部のアイドルだった。
もちろん、俺もそんな高嶺の花に憧れた一人。
紺野の事が好きだった。


今はもう、その気持ちも封印したけれど———。
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