Dear Hero
「あの…」

遠慮がちな水嶋に呼び止められる。

「その…手伝わせてしまって、すみませんでした」

…また謝る。

「お風呂の時間も短くなってしまったのも…ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「え…?」

俯いていた水嶋は、顔を上げるとさっき声かけた時と同じように、驚いたような顔で俺を見つめていた。
長い前髪に細いフレームの眼鏡。
まるで表情を隠すような飾りが邪魔で、本当はどんな顔してるのかは判りかねるけれど。

「なんで一人でやろうとしてたの?他の奴らに助け求めればよかったのに」

自分の事は棚にあげて偉そうだな、俺。
すると、水嶋は目線を左右に逸らしながらまた俯いてしまう。

「それは…あの…「大護!」


水嶋の声を遮るように俺の名を呼んだのは孝介だった。

「まだ風呂行ってなかったのか。次のクラスもあるから早く行かないと。…それに哲平の姿が見えないんだけど…」
「そうだ!哲ちゃん!やらかしてるかもしんない!」
「は!?あいつ何やってんの!?」
「哲ちゃん連れ戻さなきゃ!」
「あいつ馬鹿か!何やってんだよ!」
「哲ちゃんはバカだよ!」

女子のみなさんが危ない事を孝介に伝えると、怒りにワナワナ震えながら「あいつ…もうノート見せてやらん」なんて言うから
俺は孝介を怒らせないようにしようと強く思いました。

「とりあえず、哲平探そう。どこにいる?」
「さっき、3階から女子風呂覗けるとか言ってたからそこかも!行こう!」

孝介を連れて走り出して、そういや水嶋と話の途中だった事を思い出したけれど、振り返るとそこには水嶋の姿はもうなかった。



—————これが俺と水嶋の、ファーストコンタクト。



…ちなみに、未遂に終わったもののやましい考えがばれた哲ちゃんは、孝介にこっぴどく怒られていた。
哲ちゃん曰く、あのヤクザの様な生活指導の先生に怒られた時より怖かったと言っていたので、やっぱり孝介は怒らせてはいけないと心に刻み込んだ俺でした。
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