秋の月は日々戯れに

今まで散々一緒にいておいて今更という気がしないでもないが。

そう言われてみれば、目を覚ましたとき彼女が隣に寝ていたのは、出会い初めの一回きりで、それ以降は一度も目覚めに青白い顔を見ることはなかった。


「いつも……風呂場で夜を過ごしていたんですか?」


浴槽に背中を預け、透けた両足を抱え込むようにして座り込んでいる彼女の姿が脳裏に浮かぶ。

想像してみると、なんだかそれはとても寂しい光景だった。


「……だって、わたしが隣にいると、あなた震えているんですもん。それはもうガタガタと、ベッドまで揺らしそうな勢いで」


そう言っておどけたように笑った顔も、彼にはどこか寂しげに見えた。


「わたしのせいであなたに朝が来ないなんて、そんなの絶対嫌ですから」


ポツリと呟いてまた風呂場へと向かおうとする彼女に、咄嗟に口を開いた彼は、しかし自分が何を言おうとしていたのか分からなくなって、何も言わずに口を閉じる。


「それじゃあ、おやすみなさい。また明日」


そう言って彼女は、風呂場の方へと消えていった。
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