秋の月は日々戯れに


「お話も長くなりそうですし、とりあえずあなたは先に着替えたらどうですか。ずっと立ちっぱなしも疲れるでしょうし、そんな上から見下ろされたのでは、同僚さんも萎縮して言いたいことも言えなくなってしまいますよ」


そう言いながら立ち上がり、いつも通りに手を差し出す彼女に、彼は渋々とジャケットやネクタイ、鞄などを渡していく。


「着替えはベッドの上です。温かいコーヒー、淹れておきますね」


ひとまず消化しきれていない気持ちを隅の方に押しやって、彼は着替えを手に風呂場へと向かう。

その背後で


「怖いよあっきー!すっごい怒ってるよ。いや、怒るとは思ってたけど、予想以上だよ!」


と彼女に泣きつく同僚の声が聞こえ


「大丈夫ですよ。確かに今日はいつにも増して、顔も醸し出す雰囲気も怖いですけれど、でも大丈夫です!」


という慰めにもなんにもならない彼女の返しが聞こえた。


「……あんなに元気そうにして、どこがインフルエンザだよ。完全に仮病じゃないか、あのやろう」
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