秋の月は日々戯れに


「……なんで、ここにいるんだ」


彼の呆然とした呟きに、同僚は不機嫌そうに顔をしかめる。


「あたしがスーパーにいたらいけないとでも?」

「いや、そんなことはないけど……」


いけない訳ではもちろんないのだが、同僚の家からこの店までは遠すぎる。

入口でカゴを手にした瞬間後ろから肩を叩かれて振り返った彼は、そこに立っていた同僚の姿に驚きを隠せないでいた。


「今日は天気がいいから、ちょっとその辺散歩してたの。そしたら途中で買い物を思い出して、荷物にはなるけど忘れるよりはいいかなと思って寄ったんです」

「お前の散歩コース、広すぎないか……?ちょっとその辺って距離じゃないだろ」

「色々考え事しながら歩いてると、自然と距離が伸びるの」

「……そんなもんか?」

「インドア男には分かんないでしょうけど」

「おい、偏見で物を言うなよ」


なんやかんやと言い合いながら揃って自動ドアをくぐると、温かい空気に全身が包まれる。

「はあ……あったかい」と呟いた同僚の声を聞きながら、彼も寒さで強ばっていた肩から力を抜いた。
< 310 / 399 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop