秋の月は日々戯れに
特売日だった上に半額のシールまでついていて、普段よりずっと安く手に入れたエビでよくもまあ自慢げにと思いながら、脱いだスーツを手に部屋に戻る。
鍋から立ち上る湯気で部屋の中は熱い程にポカポカしていて、更にエビを始めとした色んな具材の煮える香りが部屋を満たしている。
「あっ、やっと来た。遅いぞ、旦那!お腹ペコペコで待ちくたびれた」
テーブルの上にはミニコンロ、そこにグツグツ煮える土鍋があって、箸と一緒に並んだ深めの取り皿には、出汁を吸ってくったりとした野菜となんだか微妙に形の歪な鶏団子に、頭つきのエビがよそわれている。
これを彼女が一人で準備したのかと思うとなんだか信じられなくて、綺麗に片付いたキッチンに一度視線を送ってから、またテーブルに戻したりしてしまう。
そんなことをしていると「早く座れ!」と同僚が煩いので、ひとまず座っていただきますまで付き合うと、彼は食べる前にもう一度自分の取り皿をじっくりと眺めた。
先に食べ始めている同僚は、口に含んだ鶏団子の熱をはふはふと逃がしながら「うん、美味しい!……いや、おい……しい?」と途中から疑問符を浮かべている。